wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

ソハの地下水道

本日は授業終了後に少しだけ図書館でめくりをしてから、大阪に戻り表題の映画を鑑賞する。ドイツ軍占領下のポーランド(現在はウクライナ領)で地下下水道管理をしながら副業でこそ泥をしている主人公ソハが、ゲットーのユダヤ人狩りから逃れて地下水道に潜り込んだ人びとを金目当てで匿うことにしたという、実話に基づく物語。最初に主人公と助手兼弟分の空き巣の最中にドイツ兵と関係をもっているらしい女性家主が帰宅、妻と娘の寝ている横で別の女性と関係するユダヤ人、主人公のムショ仲間でドイツ軍人になっているウクライナ人(主人公への呼び名も違う)などが目まぐるしく展開してついて行くのに苦労し、映画としての満足度は最高とはいえないが、当該地域の人種関係の複雑さと、登場人物の俗物的設定は非常に興味深い。なかでもユダヤ人描写が典型的なホロコーストものとは全く異なり、主人公が匿うことができるのは11名としたときの生き残りのための諍い(残念ながら選ばれなかった人びとの運命は描かれていない、地下水道内で餓死者が見つかったという話はあるが・・・)、水道内で周囲に気づかれながら性行為に及びあげくに男性は途中で他の避難者の者を盗み逃亡(これも水道内で死亡したらしく、その意図も不明)、主人公には当初はほとんど恩義に感じないなど、「感情移入できるかわいそうな人」というステレオタイプからは完全に逸脱している。ポーランド人も密告で金儲けしようとする者・主人公が大量に食料を買い付けようとするとぼったくる女商人・ユダヤ人収容所に忍び込む裏ルートの存在・マリア様もユダヤ人で差別は教会の策略といいながら主人公の振る舞いには難色を示す妻(なんだかんだいいながら協力するのだが・・・)など、なかなかしたたかで、ソ連の進軍で地下水道から出てきたユダヤ人を見る目も冷ややか(ウクライナ人との関係はよくわからないが)。ドイツ兵もすさまじい暴力の一方で賄賂が横行し、部下のやり方を兵器でくつがえす上官もあり統制がとれていないなど、当時の状況が想像できるリアリティがある。この地の収容所のユダヤ人がどうなったのか、また最終的にこの地をソ連によって追われることになるポーランド人の状況なども気になるが(主人公はソ連軍の暴走車から娘を助けようとしてて事故死したと説明されるが、家族はイスラエル政府から褒賞を受けたとのみあり)、いろいろ興味深かった。それにしても講義の感想の整理が、9割は聞いていないということがわかるだけでむなしい。長年続けてきたが時間もかなりとられるし(週の前半の夜はほぼそれで終わる)、来年度はもうやめたほうがよいかもしれない。なお書庫に新たに映画鑑賞を立てた。