wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

前田雅之『書物と権力』

引き続き電車読書の備忘。タイトルが気になっていたため某学会で購入してしまったものhttp://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b372538.html。ただいくつか興味深いトピックはあったものの、全体はあまりにも杜撰。そもそも「古典的公共圏」というタームが、「公共圏」の本来的意味を踏まえているか疑問で、本の売買が室町ではなく平安後期からあったことは常識的ともいえる事実。また最終章は後水尾院による板倉重宗への「和歌懐紙」の下賜をもったいぶった枕としているが、「懐紙」と書物は同列に並べられるべきものではないだろう。中世の写本から近世の出版という流れも近年はそんなに単純に理解されていないはず。「丹瓜」を産地を無視した「マスクメロン」との例えや、媒介者である連歌師を「ファイナンシャルプランナー」にたとえる意味も不明で、背腸に「みなわた」とふりがなを記すのもありえないだろう(古くから「皆腸」という誤記はあるようだが)。なおプロローグで何の脈絡もなく「左翼・教養主義者は七〇代以上の老人である」「もって後一〇年だろう」という毒づくが、未読の某書のようにそう書けば初版20万部特典でもあるのだろうか。大阪の破滅は決定したが、この国の学問も書き手自らが破壊しているようでは絶望的。