wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

ロナルド・トビ『「鎖国」という外交』

本年度から月曜3限に担当することになった「外来文化と日本の歴史」に悪戦苦闘している。近年進展著しい対外関係史の成果を摂取しながら、それを日本史とりわけ文化史に落とし込んで、登録200人を越える教養課程レベルでまとめるというのはなかなか至難の業。本日第八回「日明貿易室町文化」も、昨年の大歴大会準備で結構勉強させてもらったのだが、どれもこれも中途半端に終わってしまう。そういうわけで、電車読書もそのためのものを図書館で借りてきては読み飛ばしているのだが、本書もその一冊http://www.shogakukan.co.jp/books/detail/_isbn_9784096221099。著者はアメリカ出身(本書が刊行された2008年段階ではイリノイ大学教授)で、近世日朝関係史を図像史料から分析したオリジナルな研究をすすめていることで知られる。本書でもその成果が図像コード論としてふんだんに織り込まれているが、なかでももっとも興味深かったのが最近「世界文化遺産」に登録された富士山論。秀吉の朝鮮侵略の先陣を担った加藤清正豆満江下流で捕虜とした人物の通詞(松前からの漂流者であったという)から聞いた、快晴時には富士山を遠望できるという1625年刊の書物に掲載された逸話が肥大化しながら広がり、三国一の名山で、松前・朝鮮・琉球・中国杭州など異国異域の地からも見え(その「範囲」は潜在的には日本の支配地)、外征にあたって日本の勝利を見守り、異国人を引きつけるとともに、悪意をもつ存在をはねのける力を有していると認識されるようになるという。これが上方文化でどう受け止められていたかは気になるところだが、独善的な対外意識を象徴するものだったことは興味深い。やはり海域アジア史や海禁だけでは日本史を語ることはできず、どう折り合いをつけるかは今後も悩みどころ。