wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

古澤拓郎『ホモ・サピエンスの15万年』

本日は新居に向けて物件巡り。やはり予算事情もあって、ただちにこれこそはというものは見当たらず、とりあえず次回のアポを取りもう少し検討することに。そういうこともあり後期の講義関係で先日衝動買いしていた表題書を読了https://www.minervashobo.co.jp/book/b431739.html。著者はもともと南太平洋をフィールドとする人類生態学者らしく、人類の多様性を男女といった概念に見られる二分法ではなく、連続体(スペクトラム)というエマ・ワトソンも演説で用いた用語をキー概念とし、全世界に広がった人類の肌の色・体格・性別・食生活などの文化・行動・自然との関係・病気と免疫などの要因を、人類学的観察成果と遺伝子などを含む生命学的研究成果を紹介しながら解き明かしていったもの。人類を単なるクローンではない多彩な連続体という生命としてとらえ、「その人の中には最初の人間から途切れることなく続いてきた生命が」あり、「たとえ直接の血縁がなくとも、生きている人はすべてあなたと同じ生命体なのであるから、差別や紛争といった障害を取り除いて、それを守り続けていくことがすべての人に求められているのである」と締めくくられる。最新の研究が平易な文章で示されており、もてフェロモンは存在しない、太陰暦の多様な姿、アジアが穀物消費の家畜飼料への割合が低かったことで多数の人口を維持できたことなど、いろいろ勉強になり、講義で利用できる図版もありがたい。ただ狩猟の成果が均等に分配されているにもかかわらず、優秀な狩猟者の子供の発育がよいのはその妻が優秀な採取者だったからという研究が紹介されていたが、これはカップル選択の問題というより、夫の影響で妻が有利な採取環境を与えられたためではないかと、へそ曲がりの歴史研究者としては思うところ。