wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師・研究員などとして生活の糧を得ていますが、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

大塚英志『手塚治虫と戦時下メディア理論』

本日はルーティン姫路だが、朝の西明石を過ぎたところで電車はストップ。人身事故とのことで、結局は二時間半の行程になった。帰路も数分遅れとはいえ尾を引いており、いまだにマスコミで取り上げられている電車の正確性などすでに過去の遺物。そんな中でようやく読了したのが表題書http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000319515。立て続けに刊行された著者の戦時下メディア論のうち、新書形式で安価という理由で(といっても461頁・税別1400円)衝動買いしてしまったものだが、結論的には選択を誤ったよう。というのも新聞連載漫画を扱ったもう一つの著書と異なり、戦時下のまんが・アニメを理論的に読み解きながら、戦後の手塚治虫への影響を明らかにしていくというもので、手塚漫画にほとんど触れてこなかった身としてはかなり難解。しかも既発表論文7編に書き下ろし1編を各章にあて、しかも節すら全く設けられていないため電車読書にも不適。とはいえ中身そのものは興味深く、大正アバンギャルドエイゼンシュタインモンタージュ論(戦前日本でかなり紹介されていたとは思わなかった)の影響を受けた左翼「転向」組の表現者たちが、戦時体制下の文化映画というジャンルを形成し(著者はこれを「ディズニーとエイゼンシュタインの野合」と表現)、その表現の革新がそのまま戦後に引き継がれていき、その意味で戦後のまんが・アニメは技法的に絵巻物の直系継承ではないとされる。そこでは表題の手塚だけでなく、木村伊兵衛亀井文夫村山知義中野重治など蒼々たる人物が登場し、「アジヤ少国民文庫」という企画があり、民族学岡正雄・本来は舞踏批評家で戦後は石井桃子とともに絵本翻訳で知られる光吉夏彌が関与したというのも興味深い。皮肉めいた帯にあるように、結構頑張ってファシズムをやっており「戦争中、まんがも映画も日本人も今よりずっと『理論的』だった」のである。そういう意味で勉強になったことは事実。三月も半ば、紀要編集も手を離れ、著書に取りかかりたいところ。本日書店で見かけた著作にも当方の報告レジュメが引用されており、ちゃんと活字にしておかなければならない…。