wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

藤原辰史『戦争と農業』


本日は3週間ぶりの枚方(台風予備日などで2週連続講義なしになっていた)、紅葉シーズンは終わりに近づいているようで京阪はやや空いた印象だが、大声でしゃべり続けている3人の30代ぐらいのセレブ系主婦などで車内は騒々しく寝ることもできなかった。そんなこんなで読了したのが表題書で、火曜講義のためもあって衝動買いしたものhttp://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-7976-8015-7&mode=1。20世紀の農業の変化として、農業機械・化学肥料・農薬・品種改良の4点をあげ、そのうちトラクターが戦車に、化学肥料が火薬に、毒ガスから農薬へという変化をあげ、第一大戦以後の大量破壊兵器使用の様相、ナチスの飢餓政策といった史実に論究し、アグリビジネスとファストフードにおってゆがめられた現代の食の姿(当方は不勉強で知らなかったが、ベストセラーになったという著書のタイトルを借りて「食の終焉」と表現されている)の実相を示した上で、調理から排泄物の処理までを「食」とする再定義を試み、速効性ではなく遅効性を、「食べること」の仕組みもそのように変えていくことが主張されている。もともと大学という枠を越えた市民向けの「食堂付属講座」(著者のネーミング)をもとにしているだけあって、わかりやすく、しかも著者の主張が全面に押し出されたものになっている。一つのトピックから次のものへの転換が早すぎる感もあり、いくつか事実関係に疑問を感じるところもあるが、不勉強な分野でいろいろ得るところがあり、講義資料にも反映できそうな内容。「国単位、地域単位で、為政者が忘れてほしいことから、失敗に終わったけれどユニークなチャレンジまでいっぱい知っていて」という歴史家としての、実践活動としても興味深いもの。