wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

小泉和子『くらしの昭和史』

日曜日は某学会。いろいろ懐かしい方々とお話しでき、本も久しぶりに結構購入した。報告のほうは特に質問するつもりもなかったのだが、指名されてしまったので少しだけ感想を。ただ後で発言された事前に質問ペーパーを出されていた方と被ってしまい、申し訳ないことになった。やや司会進行が強引すぎた印象も。ただ発熱が治まらず、珍しくカレンダー通りとなった月曜日もほとんど何もできず、本日に読みさしを読了したのが表題書https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=19273。月曜講義で生活史を取り上げていることもあって、衝動買いしていたもの。著者が自宅を改装して公開した「昭和のくらし博物館」で企画・刊行された展示・書物を、「病気」・「食べる」・「着る」・「ひと」・「しごと」というテーマに分類・ダイジェスト版の前半と、著者の前半生を転居した家の使い方と合わせて示した後半からなる。前半はダイジェスト版はすでに理解していたものもあったが、女性下着・生理用品など全く知らないテーマもあり、いろいろ勉強になった。後半は1933年に東京市勤務の建築技師という中産階級の長女に産まれた著者の戦時・戦後体験が赤裸々に綴られており興味深いもの。東京の建物疎開・横浜大空襲で焼け出され住んだ牛小屋の改修を手伝って日本建築の基礎を学んだことや、戦後直後の女学校で「自分で何か調べてこい」といわれ、数寄屋橋を行き交う男女の服装調査をしたなど、著者の研究活動の原点も記されており、平成4年段階で昭和26年に建てられた自宅を戦後庶民住宅の資料として残すべきと考えて復原的な改修を行ったとのことで、その先見の明に驚かされる。民俗学瀬川清子・民話の松谷みよ子などともに、著者が採集していなければ歴史として残らなかった庶民生活史の専門家で、研究者として自立していく過程についても書いて欲しかったところ。ただ「あとがきにかえて」での昭和30年代への評価は、東京でそれなりの生活をしていたという経験からくるもので、憲法に則り「社会保障、自然環境を含む社会資本の充実と公共の福祉を守る法と制度がきちんと整備されなければならない」という主張は首肯できるものの、やや一面的すぎる感はある。