wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

齋藤純一『不平等を考える』

本日非常勤、講義・史料講読ともに初回より大幅減で、楽になったような、少し悲しいような…。電車読書のほうは書店で何となく衝動買いした表題書を読了http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480069498/。「平等な関係」「社会保障と平等」「デモクラシーと平等」の三部構成で、第一部では「運の平等主義」と呼ばれる各人が選択できないことは救済すべきだが、選択できる事柄は自己責任とする政治理論を、「選択」が必ずしも自発的とはいえないとして批判し、劣位な選択に陥らないために関係を再構築する「関係論的な平等主義」を主張するとともに、社会のなかでの承認・連帯の関係を創り出す上での個人の自尊感情の重要性が説かれる。第二部では不平等克服のための社会保障の必要性が原理的に論じられ、第三部ではそのために必要な「熟議デモクラシー」の構築について、市民参加のための制度設計、選挙以外の様々な言論空間の可能性について述べられている。当方は全く無知だったのだが、著者はアーレントロールズなどの翻訳も手がけた政治思想史の超一流の研究者らしく、こういう一般書は初めてらしい。政治理論入門という副題通りに非常に構成も練られており、わかりやすく最新の政治理論を紹介しながら、原発・格差と貧困・ポピュリズムなど現実問題と切り結びつつ、よりよい社会を構築するための考え方が説かれていて、大変勉強になった。とかく自尊感情を持ち得ない当方などにとっても、かすかながらでも希望が見えるもの。これが理解できるまともな政治家が増えることを望むばかり。