wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

中川毅『人類と気候の10万年史』

昨日読了の電車読書の備忘。書店で見かけ近年話題の福井県水月湖データ解析についての概説書らしいと思い、購入したものhttp://bluebacks.kodansha.co.jp/intro/221/。気候変動が地軸と地球の公転軌道の変遷によってどのようなメカニズムを辿るのかが、学史的に説き起こされており非常に有益。その上で水月湖データの意義(攪乱がない土層により7万年分の「年縞」・15万年分の状況が検出)、分析方法(高度な掘削技術、花粉化石の検出による周辺の植生復元、植生を同じくする気候との照合)がわかりやすく示されており、その信頼性が納得できるもの。その上で気候変動のメカニズムと対比することで、その全体的傾向が一致する一方で、最近の一万年が森林伐採および農耕によって著しいずれを生じさせ、本来なら生じるはずの氷期の到来を遅らせていること。変動期には極端な気温の上下が続き、突然の7度ほどの気温上昇で氷期が終わり、温暖で年間平均気温が安定した状態が続くこと。気候変動の激しい時期には植生の変化に対応できる狩猟採集生活が効率的で、農耕は気温変動の予測可能性によって初めて成り立つもので、9世紀のマヤ文明の衰退が9年に6回の干ばつが原因だった可能性が高いこと。21世紀の地球温暖化のシナリオは緩やかな気温上昇ではなく、年平均気温のカオス的変動による農業危機と考えられることが解説される。歴史時代の年平均気温の変化については触れられていないとはいえ、文献から気候変化について考える上でもっとも重要な視座を与えてくれる好著。採点が終わってからすっかりだらだらしていまい、すでに春休みも残りわずか。とにかく締切原稿だけは仕上げなければならない。