wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

石田勇治『ヒトラーとナチス・ドイツ』

一昨日、ようやく読了した電車読書の備忘。たまの外出時にだけ読み進めたので、記憶が途切れがちになっていしまったが、中身は大変興味深いものhttp://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062883184。全体は七章で構成されているが、第二次大戦の開戦は七章の途中で、前半がナチス結成から権力掌握の過程、後半がナチス体制の構造と政策に焦点が当てられたもの。左派を忌避する保守政党との巧みな妥協による政権奪取、「強いドイツ」を望む国民からの支持調達、「勝ち馬」に乗る多数の入党者、プロパガンダ・法学・優生学など知識人の積極的協力、幹部による忠誠競争などによって、ヒトラー個人による独裁体制が確立していったことがわかりやすい筆致で示されている。1951年に西ドイツで実施された世論調査でも、ナチス前期は帝政期に次ぐよい時代と評価されていたという。人口比で0.76%を占めたに過ぎないユダヤ人(逆に東方への拡大によって「殲滅」すべき対象は激増するという)をはじめ苛烈な弾圧がすでに始まっていたにもかかわらず、この体制がそれなりに「国民統合」に成功していたことが、逆にその恐ろしさを示すものになっている。本書はもともと荻上チキ氏のラジオ番組への出席がきっかけになったという。そういう意味でも現代日本への警鐘ともなっているといえる。もっとも株価の暴落・東京オリンピックをめぐる迷走などが露呈しており、「二度目は喜劇」としてできるだけ被害少なく幕が引かれることを望むばかり。