wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

浜本隆志『笛吹き男の正体ー東方植民のデモーニッシュな系譜』

本日は岡本2コマ、登録3人の2限は先週0でどうなるかと思ったが今週は1で複雑。電車読書のほうは目次をみて衝動買いし積ん読順序を早めたもの。前半はハーメルンの笛吹き男による子ども失踪事件の謎解き。事件発生を「ヨハネパウロの日」というキリスト教殉教者追悼の日ではなく、その4日前の異教的な「夏至祭」のどんちゃん騒ぎに乗じて起きたとし、失態を隠蔽するために動かされたとする(著者の言によるとオリジナルの説)。笛吹き男の正体は東方植民をリクルートするロカトールだとし、農奴など新天地を求める大人たちに子どもが集団催眠のように随行したのが実態と評価(ドイツ人言語学者が東方の地名から主張している説を追認)。そこにはドイツ騎士修道会という当人は妻帯しないため、ロカトールによる農民のリクルートが植民活動に不可欠という前提があったとする。さらに騎士修道会のワシの紋章がプロイセンを経由してナチまで受け継がれていることを例示して、ドイツナショナリズムの「東方への衝動」、第一次世界大戦末期の餓死者からの「東方生存圏」構想、SSが金髪・碧眼の女性と性関係を結びアーリア民族を創出するというレーベンスボルン(生命の泉)政策による占領地における子どもの拉致を系譜として結びつけたもの。「笛吹き男」の「東方植民」「集団妄想」が時代を超えて連鎖する様相は大変興味深い。それにしても大日本帝国のただただ泥縄で野蛮な政策に比して、ナチのおぞましさはやはり際立っている。

筑摩書房 「笛吹き男」の正体 ─東方植民のデモーニッシュな系譜 / 浜本 隆志 著