wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師・研究員などとして生活の糧を得ていますが、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

角田徳幸『たたらの実像をさぐる』

本日はお世話になっている某氏の依頼で、団体ご一行様をお城の専門家とともに姫路案内。姫路に通って7年目になるがこれまでほぼ素通りだったので、頼まれてから急遽下準備にかかり、寺町とそこに残る中世の痕跡(姫路城内で発見され、寺町に移転していた姫道山正明寺境内に奉納された中世の石塔の写真を下に掲げた)、総社と町割りのズレなどを紹介する。おりしも来年3月で離れることになったため、こういう機会も最初で最後。雨が止んで助かった。そういうわけで行きがけに読了したのが表題書。これまたこの仕事に関わらなければ、全く関わらなかった分野。浜田出身の東京帝国大学教授として日本の金属学の礎を築いた俵國一(1872~1958)は、1898年にたたら製鉄の実地調査を行い、それを退官後の1933年になってから『古来の砂鉄精錬法』として刊行した。本書は俵が紹介している現場で発掘調査を実施することで、たたら場の全体像(山内と呼称)を復元した成果を紹介したもの。そこから現存している奥出雲の菅谷鈩とは異なる、海運に適した海のたたら、さまざまな高殿の姿、鋼(日本刀の材料)の生産は少数であったことなど、現在の漠然としたイメージとは異なる像が示されている。多くの写真だけでなく、山内のイラストも掲載されており、イメージがしやすい。なお俵の取りあげた鈩の収支が紹介されているが、人件費は2割以下という安さで、収益の黒字もわずかで、廃絶間際とはいえ経営者も減価償却が可能だったのかというレベル。

たたらの実像をさぐる 山陰の製鉄遺跡|新泉社

正明寺所蔵板碑