wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師・研究員などとして生活の糧を得ていますが、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

小田中直樹『歴史学のトリセツ』

結局、最低限の仕事をこなしただけで来週から秋の講義(4種類7コマ)。今週後半は出かけるため、講義資料の手直しにかかっているが、それにあわせて先週購入した表題書を読了。電車読書ではないが備忘を残しておく。はじめに「歴史って、面白いですか?」という問を立てて、ランケに代表される実証主義(記憶の排除)・公文書至上主義(ナショナル・ヒストリー)・資料批判(専門家主導の欠如モデル)を近代歴史学パラダイムとし、それを乗り越える試みとしての仏アナール・世界システム論・イギリス労働史学・日本の「マルクスウェーバー」(用語は用いられていないが戦後歴史学)、言語論的転回とその対応、最新の記憶研究、グローバル・ヒストリー、パブリック・ヒストリーと史学史の歩みをわかりやすく紹介し、現在もランケ学派のパラダイムにのっとった記述が優越しているが、最新研究にはパラダイム進化の萌芽があると結論づける。SNSでの専門家の評価は良さそうにみえるが、当方には一般書として以下の点で大きな欠陥があるように見える。①SNSでの非専門家である一般のひとびとの議論を手放しで評価(現実にはフェイクだらけ)、②ランケの科学主義を「専門家のコンプレックス」と貶め(フェイク系のよくとる手法)。研究対象の広がりは新たな実証・資料批判手続きとともに発展してきたことに触れずに、このような新書を出しても「誤読者」が喜ぶだけ。

筑摩書房 歴史学のトリセツ ─歴史の見方が変わるとき / 小田中 直樹 著