wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

海野聡『森と木と建築の日本史』

本日は枚方3コマ、特にトラブルはなかったがそれでもヘロヘロ。そんななか電車読書は、とりあえず目だけは通しておこうと購入していたもの。著者は東大建築史から奈文研を経て東大に戻ったという経歴で、4章立ての最初の1章で材木の特性を木目を含めて概論しているところと、建造物の修理・調査報告書から使用された用材について紹介しているのが特徴で、いろいろ勉強になった。その一方で気になるところも。①興福寺大乗院・一乗院を本所とする塩座が瀬戸内海塩の独占販売権を有していた(29頁)とするのは言い過ぎでは。②タットマンの伐採範囲の拡大を示した図(50頁)は参考文献に挙げられているとはいえ出典ぐらい明示するべきでは。なお鎌倉の東大寺造営料国の周防すらちゃんと反映されておらず、タットマンの最新書でも時代区分は修正されており、いい加減に使うのも止めるべきだと思うが。③古代の章の最後に桶と樽に触れるが、両者の普及は中世後期以後で不適切では。④播磨国三方荘は豊岡市但馬国)ではなく宍粟市(116頁)。⑤南禅寺の1380年代の造営ですでに四国材木は利用(130頁)。⑥安国寺恵瓊建立の不動院に「朝鮮木文禄三」とあるのは単なる輸入ではなく戦利品としての象徴的な意味では(145頁)。⑦東アジアにおける日本の木材資源の豊富さが強調されるが、多雨気候による再生という前提を記しておくべき。とりあえず備忘として。

森と木と建築の日本史 - 岩波書店