wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

伊藤聡『日本像の起源』

本日はルーティン姫路。年休が余っており一時間遅く出たが、人出はやや減っている程度か。ただ職場でも濃厚接触で隔離リモートが発生しており、コロナはつい近くまでやって来ている感。久しぶりに行き帰りの大半を起きていたこともあって、積ん読になっていた表題書をようやく読了。自国意識における神国意識の肥大化、中国に対する<負債>を本場で評価された・日本にやって来たというという説話と反作用としての韓半島琉球を蛮夷に見立てる態度、現実に接触しないが故にファンタジーの源泉となり<中国的なるもの>に対抗する回路となったインド認識、独自の文字を持たない故の仮名文字の創始伝承・言霊の評価・神代文字の創出(しかもハングルの模倣)・梵字をめぐる和歌陀羅尼説、「やまとだましひ」が中国的教養である「才」と対抗する用語として平安時代藤原氏を正当化する言説から近世に「武」の観念が結びつき和魂漢才・文武両道などの用語につながり、ケガレから浸透する肉食忌避が中国との対抗で浮上する一方で廃仏による西洋化を肯定する論理ともなったとし、その何れもが他国人が読むことを想定していない言説であり、日本固有論が内輪でのみ流通する言論であると結論づける。一つ一つはこれまで論じられてきたところだが、全体を一書にまとめてもらったのはありがたい。来年も担当することになる「外来文化と日本の歴史」のテキストとしても有効で、いくつか使える図表もいただき有益。それにしても本居のわかっていながら対中劣等意識を逆転させた操作と平田の暴走が、いかにその後に刻印を与えたのかを改めて痛感させられるとともに、和魂が容易に反知性主義へと接続されることもわかったのも重要。

「日本像の起源 つくられる〈日本的なるもの〉」 伊藤 聡[角川選書](電子版) - KADOKAWA