wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

武井彩佳『歴史修正主義』

本日は休日出勤、たたら製鉄研究で第一線の研究者が揃い、いろいろ勉強になった。そんなわけで表題の電車読書の備忘。実証主義史学の方法とまっとうな批判的研究の重要性を示した上で、国民国家成立によるナショナル・ヒストリーが歴史修正主義を生み出したとして、主にユダヤ陰謀論を中心にヨーロッパの100年の動向を整理した上で、ヨーロッパ(大陸法)での法規制のあり方とナチスホロコーストからアルメニア人虐殺・旧共産主義体制の蛮行といった動向まで論究。国家による行き過ぎた規制を招かないためには、表現の自由の保障と民主主義が機能していることが必要だとする。白黒わかりやすい結論があらゆる局面で出せるわけではなく、グラデーション状にしかなり得ないという歴史学の特性を突いて、「諸説ある」という認識を作り上げようとする歴史修正主義の手口が、非常にわかりやすく説明されており勉強になった。邦題「肯定と否定」として映画化かもされたアーヴィング裁判の実際など、個別の事例も興味深く、個々の歴史修正主義者の動向が説明されているのも有益。ただ著者の日本の現状認識は教科書の現状・学術会議問題からして楽観的に過ぎるのでは。

歴史修正主義|新書|中央公論新社