wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

大澤正昭『妻と娘の唐宋時代』

月曜千里山は11日までリモート。ただ講義がらみの新刊書および月末の報告に向けての調べ物で図書館に出勤し、読みさしの表題書を読了。タイトルに惹かれて購入していたもの。財産相続など男系・父系原理が貫徹しているとイメージされている当該社会における女性の実態について、文学作品・裁判判例集などから読み解く。そこでは女性からの離婚請求が容認され、化粧田のような財産権をもち、後家は強い権限を有し、五人程度の核家族が基本になっており、後代ほど原理的にも貫徹されていたわけではないことが具体的に示される。副題に史料に語らせようとあるように、複数の可能性が示され、アメリカ人研究者による翻訳・セミナー受講者による超訳など、一般向けながら方法論も示されている。日本中世社会との類似性が感じられる一方で、男児二人・女児一人を超えた場合の「溺女」(女児を水につけて殺害)が慣習化している地域もあり、圧倒的に男子余りの社会だったというのが、女子余りとされる点で大きく異なるようだ。ともあれ絵画資料が実態より男子ばかりで描かれているというバイアスなどいろいろ勉強させてもらった。

https://www.toho-shoten.co.jp/toho-web/search/detail?id=4497221100&bookType=jp