wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

倉地克直『江戸時代の瀬戸内交通』

本日は某所の文化財審議委員を拝命したためその会議で出かける。もとからの知り合いが含まれるとはいえ、文献史を代表するのは場違いな感が否めない。ただ帰路は民俗学の方とご一緒させていただきいろいろ勉強になった。また積ん読だった表題書も読了。「御留帳御船手帳」という岡山藩による海事行政の記録が延宝元年から貞享三年まで残されており、それをもとに海難事故・物流について示したもの。17世紀でも冬の日本海航行は避けられていたこと、台風による多数の遭難、播磨での海難事故の多さ、船数で多数を占める流動的で場当たり的な中・小型船が瀬戸内海の物流を支えていた事実、事故発生時の積み荷の刎ね捨てを見届けるという上乗りの役割・船宿の仲介・残存した積み荷の売却・船主と荷主が共同で損害補償する「分散仕法」など慣行、瀬戸内海を行き交う薪船と牛窓商人による日向・土佐での請山など、中世を考える上で参考になる事例が多数紹介されており勉強になった。天草・八代から材木が積み出されていたのも意外(中世には中国向けか)。

江戸時代の瀬戸内海交通 - 株式会社 吉川弘文館 安政4年(1857)創業、歴史学中心の人文書出版社