wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師・研究員などとして生活の糧を得ていますが、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

塩澤寛樹『大仏師運慶』

本日は岡本。リクエストもあって「鉄と日本刀の歴史」という初めてのテーマに取り組んでいるため、完全な自転車操業で、区切りも中途半端な、今時の講義スタイルとは全く異なるもの・・・。電車読書は片道15分程度なのだが、読みさしの表題書をほぼ読了し残りは自宅で片付ける。彫刻史で最大の評価を受けてきた運慶について、①父の康慶工房の一員としての制作も、自身の工房で弟子が制作したものも、運慶作とされ、二重基準になっていること。②朝廷にかかわる造像は鎌倉期も院派・円派・慶派が併用、幕府では初期は運慶主体の慶派が独占し次第に鎌倉に本拠をもつ仏師が活躍しており、運慶は両者で重用されたところに特徴がある。③しばしば用いられる「写実的」という表現の曖昧さを指摘し、本覚思想に基づく実在感の重視と評価されるべきこと。④東大寺過去帳で大仏殿の巨像に携わった三人の仏師が読み上げられるのに運慶の名前はないなど、全てから高く評価されていたわけではないこと。などが指摘され、史料的根拠が薄弱なまま事蹟を称揚してきた先行研究を批判。たまたま手に取ったものだが、いろいろ興味深く、運慶を到達点としてそれ以後の時代の研究が乏しいのは、歴史を総体として捉える上では問題で、室町になると制作年代の比定以上のことはほとんどされていないように見える。刀工を考える上でも、仏師の組織的展開についても知りたいところ。

『大仏師運慶 工房と発願主そして「写実」とは』(塩澤 寛樹):講談社選書メチエ|講談社BOOK倶楽部