wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

馬部隆弘『椿井文書ー日本最大級の偽文書』

本日は4月24日以来の姫路出勤、この間に歯医者への通院はあったが、人とちゃんと対面で会話したのもそれ以来。ただ早起きを意識して眠りは浅く、職場でもヘロヘロ。そのためもあって一時間休暇をとって、帰りに書店でいろいろ衝動買いしたことで、積ん読だけが増えるばかり。そういうわけで久しぶりに電車読書の紹介。といっても半分以上は帰ってから読んだものだが・・・。もともと著者がこの問題に取り組み始めた頃に、当方が編集委員をしていた学会誌に投稿があったため状況を少しは知っていたが(本書最初に紹介されているエピソード)、その後は遠ざかっていたため、全体像ははじめて知る。天保八年(1837)に68才で亡くなったとされる椿井政孝が式内社探し・村落間の山論に対応しながら、文書・系図・絵図を偽作し、その全体の相互連関を「興福寺官務牒疏」という「中世文書」にまとめあげ、それが大日本仏教全書に収録されたことで、一見して偽文書とわかるはずのものが高い信憑性をもつとして利用されてきたことを概観。偽文書であることの論証は面倒なので、本書でも物足りなく感じたところはあったが(疑っているという意味ではない)、全体をまとめたものとして有益。本居が全く架空の絵図をつくったというのも有名な話だが、近世後期の「知識人」のトンデモさは興味深いところ。また仕事柄で地域史に取り組むものとしては、地元の「志向」との折り合いはいろいろと自戒すべきところ。

椿井文書―日本最大級の偽文書|新書|中央公論新社