wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

本多博之『天下統一とシルバーラッシュ』

本日で講義は13週目に突入。例年と比べ日差しは少ないが(農産物価格高騰が危惧される)、湿気が多く電車内でも汗が噴き出る。すでに本クールでは終えているのだが、秋にもかかわる内容を含んでいることから衝動買いしたものを読了http://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b199722.html石見銀山の発見による中国商人・ヨーロッパ人の来航。銀流通の普及・西国大名の貿易・銭の信用低下から信長による京升の採用が石高制の萌芽になったこと。豊臣政権の大規模造営による求心的流通構造の成立・朝鮮出兵による海運の構造的変化・とりわけ文禄期に国内鉱山からの金銀運上体制の確立・金銀貨幣・東西海運の結合など江戸期の政策の原型が成立したこと。秀吉死後にいち早く家康が外交権の掌握に努めたこと・徳川政権による独自の通貨体系の構築・諸勢力の対外貿易を統制しシルバーラッシュの終焉へと向かっていくことが述べられる。石見銀の産出以降の社会の変容はこの間に海域史として急速にさまざまな事実が明らかにされてきたが、これを国内体制としての石高制と貨幣制度と結び付けられることで、この間の全体状況がスムーズにまとめられたように思える。ただ気になるのがコメの流通の実態。65~67頁には毛利氏が兵糧調達のために前線に銀を送った事例が挙げられているが、そう簡単に大量のコメを購入することができたのはどういうからくりによるものなのか。その一方で戦場飢饉論という研究もあり、銀があったからといってどこでも簡単に買えたのだろうか。生産される村からの調達のあり方も含めて、まだまだ米穀流通については解明すべき点が多いような気がする。本日同世代の研究者が新著をお送りくださった。当方などとは比べ物にならないほど多忙なはずだが、圧倒的な仕事量。まさに忸怩たる思い。せめて一冊ぐらいは書下ろしで出したいものだ。