wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

ジェラルド・グローマー『瞽女うた』

本日は手帳には研究会の予定が書いてあったのだが、中止になったのか案内が届かなかったため、組合の委員会に出かける。先週は火・水とスーツを着込んで電車で爆睡したこともあり、ようやく読了したのが本書https://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/。近世に最盛期を迎え、第二次大戦後も新潟の高田・長岡などで活躍していた瞽女について、文献史料からその活動形態を紹介するとともに、音楽史という著者の立場から、近代音楽と異なる正調のない自由な旋律と歌詞の変形が強調される。前者については仲間集団の性格・門付の「場」の所有と対立など文献史的には気になるところはあるが、その広範な活動には驚かされるところ。「視障者」(著者の用語)は瞽女になるしかなかった一方で、なったらとりあえず生活できたという近世社会の特質を示すもの。なお婚姻の権利は事実上剥奪されていたようだが、「性」の保護はあったようでそれも興味深い。後者については日本の芸能の本質を考える上で非常に興味深い事実。能・狂言はある段階で保護される流派が成立するため初めから正調があったように思ってしまうが、瞽女の場合はさまざまな家での門付け唄、宿泊先への宿唄、客を迎えての座敷唄(泣かせと笑い)が「商売」として使い分けられ、師匠からの独立も可能だったようで、生きた芸能のままその生命を終えたたため、正調が成立することなかったのだろう。これは中世の芸能を考える場合にも忘れてはならない原則。本書のHPでは採録された瞽女うたの一節を聞くことができるが、曲調や声の多彩な様相を実感することができる。