wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

天野忠幸『三好長慶』

昨日の流れからすると室町のお勉強というところなのだが、同じ京都でクローズドの研究会があり聚楽第について学ぶ。報告は一人学際研究者らしい興味深いものだったが、4月に初稿を出した原稿は年内刊行が目標ということらしい・・・。電車読書のほうは、老眼の進行に加えて車内の薄暗さに妨げられ(寒い冷房を2度上げてその分明るくしてほしいと思うのは当方ぐらいのようだ、暗くて暑いHKを除く)、停滞していたものをようやく読了http://www.minervashobo.co.jp/book/b167992.html。前半は三好氏の台頭から長慶の死までの詳細な政治史で、人の名前を覚えられなくなった当方にはついていけない世界。中盤で家族・家臣団をはじめとする関係者の詳細な考証があり、後半で村落を直接支配したこと、法華宗との密接な関係、領国の支配構造が示され、最後に後継者について触れられる。日本評伝選の一冊だが、あえて長慶個人の内面に踏み込むことなく、歴史学の王道である一次史料を用いて三好権力全体を概観したもので、その潔さは評価に価する。細かい事実を評価する能力はないが、この分野に関するもっとも優れた良書としての位置を当分占めるものと思われる。足利将軍家を克服しようとした最初の「政権」であるという主張についてもそれなりに是認できるのだが、その延長線上に信長・秀吉を位置づけることができるというのはやはり疑問。かつて一向一揆VS武家統一政権という二つの道筋のせめぎ合いとの議論があったが、ある意味でそこに立ち返る必要があるのではないか。著者の明らかにした三好氏はあくまで調整型の権力で、統一政権という能動的(暴力的・おせっかい)な権力とはかなり相違しているように思える。むしろ現実の歴史的展開とは別の方向性があったという評価も可能なのではないか。