wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

根本敬『物語ビルマの歴史』

本日午後は組合総会(引き続き執行委員に選出)。夜は来年度でなくなる可能性が大きい非常勤先の打ち合わせ会に久しぶりに出席。予想より出席者は少なかったが、美術史研究について初めて知ることが多く勉強になった。そういうわけで九州・東京へも連れて行った表題書をようやく読了。「人類の歴史」で英領インド支配の中でカッコ一つ、第二次大戦における日本軍の情宣活動のスライド一枚・インパール作戦の失敗で取り上げるだけで、体系的なイメージを全く持てていなかったが、著者の名前は書店などでたびたび見かけていたので購入してみたものhttp://www.chuko.co.jp/shinsho/2014/01/102249.html。新書にしては大部だが、ビルマ(口語、バーマの転化)・ミャンマー(文語)の差とビルマ民族主義との関係、名前の表記や言語、9世紀・13世紀・18世紀半ばという周辺世界とも関係があると思われる画期、上座仏教の影響、英領化の過程と特質(周縁民族の藩王など)およびビルマナショナリズム、日本軍への抵抗と協力、独立とアウンサン暗殺、ビルマ社会主義、軍事政権、アウンサンスーチの思想と行動、今後の展望(ビルマナショナリズムの光と影)までがコンパクトにまとめられており、全体のイメージを持つことができた。他の東南アジアでも見られる平野部の農耕社会による国家形成と、山岳部の諸民族との関係、および植民地支配のあり方と解放運動の過程が、現存国家の成り立ちに大きく影響している点がそれなりに理解できた。またアウンサンスーチーが単なる独立の英雄の娘というイメージ以上にいろいろ考えている人だというのもはじめて知ることができた。ただ気になったのが日本語参考文献の偏り。著者以外で歴史に関わると思われるのは二人で、しかも雑誌論文がないためそれが歴史学者なのかどうかも不明。著者は1957年生まれということだが、後継者は育っているのだろうか。大阪外国語大学が黒い巨塔大学に吸収合併されてしまったのは今後非常に大きなダメージになるのではないか。