wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

鐘江宏之『律令国家と万葉びと』

授業準備のために非常勤先の図書館で借りてきたものだが、結構面白かったので備忘を残しておくhttp://www.shogakukan.co.jp/books/detail/_isbn_9784096221037。7・8世紀を中心とした通史なのだが、大きな特徴は政治史の叙述がほとんどないところ。全集小学館日本の歴史という本シリーズ全体の特徴ともいえるが、古代史でここまで展開できるというのは斬新な印象を受ける。また7世紀の朝鮮半島方式から8世紀の中国方式への、システムの抜本的な転換という視点も大変面白かった。とりわけここでも紹介した京都学会の中心的担い手による7世紀から9世紀までの流れるような叙述には強い違和感を感じており、それよりもはるかに納得できるもの。準備にかなりの時間を費やしている(現実逃避ともいうが・・・)「外来文化と日本の歴史」という観点からすると、日本社会が有するある種の変わり身の早さを非常によく示したもの。後半の生活誌の叙述でどうして某氏の家族論が引用されていないのかという疑問もあるが、全体としては新しい古代史の方向性をわかりやすく示したものと感じられた。奈良・平安の細々とした政治史などは一掃して、学校教育もこういうものをベースにしていくべきだろう。もっとも自民党の教育改革では全く逆方向の露骨な「教育と研究の分離」が打ち出されており、昨年末からの信じられないような言動がおおっぴらに流通するという社会における価値観の転換がそれを支えている。公私両面とも絶望的としかいいようがない。